Share

第十二幕

last update Last Updated: 2026-03-04 11:38:00

 ——どれくらいの時間が経っただろうか。

「リアナ皇女、オルディボ様がおいでになっています。いかがなさいますか?」

 部屋の外からミリアが、そう応える。とっくに社交会は始まっている。しかし、姫は部屋のベッドに寝そべったまま一人考え込んでいた。胸元に抱え込んだ本を、そっと枕の下に隠し入れる。姫が、ゆっくりと身体を起こす。

「入れて良いわよ」

 姫が言うと、護衛の男はミリアの指示で部屋へと入室する。

「姫様! どうされたのですか? 私が来るまで待つようにと言ったはずですよ?」

 護衛は救急箱を手に、どこか慌てた様子で言った。聞くに、私を探し回って宮殿内を何周もしたそうだ。まったく…… 遅いと思ったら、なぜ真っ先に寝室に来なかったのか疑問で仕方ない。

「それで、これからどうされるのですか? 私としては、すぐにでも社交会に戻って頂きたいところではありますが……」

 護衛は姫の前で膝をつくと救急箱を開き、姫の手当てを始めた。本来ならば専属医
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第十三幕

     ——狭く薄暗い部屋で男が一人、本を手に文書を眺める。僅かなランプの光を頼りに見飽きた文書を何度も何度も読み返す。「あなた、まだいらしたんですか? もうとっくに真夜中ですよ。皆さまも帰られましたし、あなたも休んではいかがですか?」「なんだ、まだ起きていたのか。とっくに寝ているものだと思ったが随分と多忙なのだな」 皇帝は本から視線を逸らすことなく応えた。「まさか、あなたに比べたら大したことなんてありません」 皇后は和かに応えた。「なるほど。それで? 私は、まだしばらく残ってやることがある。それが終わるまでは床にはつけない。お前は、どうするんだ?」 皇帝は、ジッと文字の一点を見つめる。「なら、私もしばらく残りますわ。あなたが寝るまでは皇后として、この国の為に何か出来ないか考えてみます」「そうか。それは結構なことだ。なら、また一つ寝る前に覚えて行くと良い。この宮殿内には一つだけ如何なる者も皇帝たる私の許可無く出入りすることが許されない部屋が存在している。それは薄暗く小さく宮殿内に相応しくない作りをしている。しかしだ、もし仮に許可無く、指先一つでも侵入したことが、この私に知られたら…… その日が、その侵入者の命日となるだろう。ところで、なぜいつも、お前が私を見に来る度、私は、この本から目が逸らせなくなってしまうんだろうな。いつも不思議で仕方ない」「どうして……? その本が、それ程までに、お好きだからではないのですか? それか……」「足元に気をつけろ。危ないぞ」「足元…… あっ、ごめんなさい……」 その時、皇后は何かに気づいたかのような様子で、その右足を、ゆっくりと部屋の境界線の外に追い出した。 皇帝は読んでいた本を静かに閉じると、視線を皇后に向けた。「それと、一体いつから、この部屋には自前のランプが置かれるようになったんだ? 何度、勝手に入るなと私は言った? しばらくの間、この部屋の鍵は私が預かっておく。くれぐれも勝手な真似はするなよ」 皇帝は一つため息を吐いた。 「"ランプ……? あなたのではないんですか?"」  皇帝の表情が強張る。咄嗟に持っていた本を机の上に置く。「ッ!?」 足りない…… 何か足りない……「どうかなさいましたか?」 皇后が心配そうに見つめる。「何を見た…… イザベラ、この部屋で何を見た…… い

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第十二幕

     ——どれくらいの時間が経っただろうか。「リアナ皇女、オルディボ様がおいでになっています。いかがなさいますか?」 部屋の外からミリアが、そう応える。とっくに社交会は始まっている。しかし、姫は部屋のベッドに寝そべったまま一人考え込んでいた。胸元に抱え込んだ本を、そっと枕の下に隠し入れる。姫が、ゆっくりと身体を起こす。「入れて良いわよ」 姫が言うと、護衛の男はミリアの指示で部屋へと入室する。「姫様! どうされたのですか? 私が来るまで待つようにと言ったはずですよ?」  護衛は救急箱を手に、どこか慌てた様子で言った。聞くに、私を探し回って宮殿内を何周もしたそうだ。まったく…… 遅いと思ったら、なぜ真っ先に寝室に来なかったのか疑問で仕方ない。「それで、これからどうされるのですか? 私としては、すぐにでも社交会に戻って頂きたいところではありますが……」 護衛は姫の前で膝をつくと救急箱を開き、姫の手当てを始めた。本来ならば専属医がやる仕事ではあるが姫の意向で軽傷であれば専属の護衛が一任することになっている。「別に…… 特に何も考えてないわ。ただ、今はあまり気分が乗らないだけ。気が変わったら戻る。それとも、何か急いで戻らないといけない理由でも?」「理由も何も。前も言いましたが、これは姫様の誕生日祭半年前の祝いを兼ねていますので、主役がいないのは少し寂しいと言いますか……」 動揺する護衛に姫は追い打ちをかける。「良いじゃない別に。どうせ私がいなくても社交会は進行し続けるわよ。去年だって私が体調を崩して休んだのに何の問題もなく終わったじゃない。所詮、私なんか飾りよ飾り! 居たところで良い笑いものになるだけ。みんなそう思ってるわ。誰も本気で私の心配なんかしてないわよ…… お父様も……」「体調を崩したも何も、姫様が勝手にミーシャ様とワインの飲み比べ勝負を始めたのがいけないんですよ? 笑われても仕方ありませんよ。正直、私も笑っていました」「笑うなよ。仕方ないでしょ。あっちが、生意気な態度をとるから痛い目

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第十一幕

    「私に何か用かしら? 良いわよ。少しだけ話相手になってあげる。あなた、名前はなんて言うのかしら? ちなみに私はべニート・リアナっていうの。これでも、ディグニス帝国皇位継承権第一位なのよ。凄いと思わない?」 姫は腰を低く目線を下げると、野良ネズミに対し自慢気に話を進める。側から見れば、それは滑稽以外の何ものでもない。 「チュチュッ!」 「チュチュッていうの? 珍しい名前ね。でも気に入ったわ。貴方、私の従者になりなさい。そうすれば特別にチュネープ公爵の爵位をあげても良いわよ。領地は…… そうね、この宮殿内全部よ。あっ、でも図書館は言っちゃ駄目よ。馬鹿になるから。どう? 悪くないと思わない?」 姫はそっと手を差し出す。するとチュネープ公爵は姫から逃げるように側の階段を駆け上がる。姫はその姿を前に吐息をもらす。なんで皆んな逃げるのよ…… 姫が視線を上げると、チュネープ公爵が自分を見下ろしていた。 「あら、随分と偉そうな態度をとるじゃない。でも良いわよ、私優しいから今すぐに降りて謝ってくれたら許してあげる。ほら、早く降りてきなさいよ」 しばらく向かい合って対峙した後、痺れを切らした姫が階段に足をかける。すると、驚いたチュネープ公爵はさらに上へと駆け上がり階段の奥へと姿を隠した。 「ちょっと! せっかく私が許してあげるって言ってるのに、それを無視するなんて貴方ね…… まったく…… フフッ。私の言葉を無視するなんて…… 良いわよ、絶対に見つけてあげるから」 姫は誰もいないことを密かに確認する。「ちゃんと隠れるのよ」一言呟き、姫は陽気な態度で暗闇の中を駆け上がる。 「あら、随分と隠れるのが上手いのね。暗くて良く見えないのもあるだろうけど……」 姫は壁にかけられたランプを手に取る。しかし、その視線はある一室の扉に止まる。僅かに開いた扉、その隙間から差し込む光に導かれる様に姫は足を運ぶ。 「もうっ、勝手に人の部屋に入ったりしたら駄目よ。怒らないか

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第十幕

    「底辺貴族が、私にこんなことをしてタダで済むと……」 パリンッ 足下にガラスの破片が散乱する。男の威勢は雀の涙にも及ばなかった。「リ、リ、リアナ皇女…… ど、ど、どうして…… ヒッ!」 隣から伸びた手がルーティック侯爵の腕を掴む。それは、自身が上級貴族であることを疑うほどの握力であった。「おい…… 誰が底辺貴族だと?」「オ、オルディボ閣下。ち、ち、違います。まさか、リアナ皇女だとはこれっぽっちも…… その、そのですから。私はこの男に対して底辺貴様と言ったわけで」 ルーティック侯爵は辺りをキョロキョロと見渡す。しかし、誰一人として目を合わせようとする者はいない。全ての視線は姫に集中する。 おかしい…… おかしい…… こんなことがあって良いわけない。なんで、予定では皇族は一緒に登場されるはず。ルーティック侯爵の焦りが表情に現れる。「謝罪ならいくらでもします。ですから、どうか手を離してください」 まずい…… まずい…… 万が一、皇族に怪我でもさせようものなら……「リアナ皇女、どうか今回は私の無礼をお許しください。この恩はいつか……」「いった…… 急に掴んだりするから、腕痛めたじゃない」 え…… 姫は手首あたりをそっと撫でた。護衛の合図で兵士達がルーティック侯爵を囲む。構えられた銃口が四方八方ルーティック侯爵の頭部に狙いを定めた。合図一つで、頭が消し飛ぶオルディボの眼が無言でルーティック侯爵にうったえる。「お、お待ち下さいオルディボ閣下。これはあまりにも酷な話です。私とて、リアナ皇女だと知っていれば、このような無礼は決して…… そう。会場の方々に聞いてみるといい。失礼ながらオルディボ閣下の判断には間違いがあると考えるしか。それに、今回の事故はあくまでも仕方のないことで……」 トンッ トンッ 何者かが階段を降る音が響く。階段……「" 面白いことを言うなルーティック侯爵。仕方のないことか、これは詳しく話を聞く必要があるようだ。そうは思わないかオルディボ "」  護衛は握っていた腕をそっと手放す。「銃を下ろせ」その合図で兵士達は一斉に銃口を地に向ける。豪華なコートに無数の勲章、長髪に整った顔つき、威厳のある透き通った声、その全てが男の地位を象徴しているようだった。「お父様……」 姫が呟く。会場に緊張が走る。「こ、こ、皇帝陛下! ああ、私に

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第九幕

    「姫様! そんなに急いでどうするおつもりですか。まずは皇帝陛下にお会いしてから皇族揃って出席するべきです。それに、この式典は姫様の誕生祭半年前を記念したもの。主役が突然現れては皆困惑してしまいます」 一人足速に会場に向かう姫の後を護衛の男が追う。銃を持つ複数人の兵士達も、なんら姫の歩みを止めることが出来ない。「駄目よ。お父様が来てしまったら私は主役になれない。それに周りの人達も怖くて誰も私に話しかけられなくなるわ。……たまには同年代の子とも、お話ししたいのよ」 その姫の表情はどこか寂しげなものだった。思えば、最後に社交会に参加したのも、もう半年も前のことだった。その間、宮廷内部の人間以外とは一切口を交わしていない。「分かりました。ただし、あまり目立たないように入場しましょう。護衛の数も最小限に抑えますが、決して私からは離れないように。警備が万全とはいえ、姫様の命を狙っている輩がいないとも限りません。それと皇帝陛下には私の判断であると説明します。姫様の独断だと思われては、また面倒なことになりますからね」 護衛は幾つかの兵士に命令を出すと、兵力を四人にまで減らした。「あら、随分と気が効くのねオルディボ。てっきり、賛成してもらえないものかと思っていましたのに」「何年一緒に居ると思っておられるんですか。私は姫様が降誕なさった日から今日まで、ずっと側にいるんですよ。少し言ったくらいでは姫様が止まらないことくらい心得ています。それに、こういう時は無理に止めるより勝手に止まるのを待つ方が私の仕事も減って楽なんですよ」 最後に本音が漏れたようだ。姫は「良く、分かってるじゃない」と一言添える。「姫様、今から入場しますが、最後にお酒はほどほどにして下さいね。ただでさえ、多くの貴族達が集まっているんです。下手をすれば皇帝陛下の、お顔に泥を塗る事になります」 二人の兵士が小柄な門をゆっくりと開く。思っていた通りだ。会場は既に無数の貴族達で溢れかえっていた。と言っても、ほとんど見慣れた顔ぶればかりではあるが。「オルディボ閣下、それにリアナ皇女…… ご、ご、ご入場はまだ先のはずですが」 メイドのルカが一人、困惑した様子で話を始めた。「気にしなくて良い。私の判断だ。すでに話は通っている。それより、そのワインをいただいても良いか? あまり目立たないようにしたい。私と姫様

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第八幕

    日が沈み庶民達が眠りにつく中、宮廷内は夜の街を照らす月光の如く輝いていた。屋外に停泊する馬車の数からも、この集会の規模が伺える。会場内を見渡せば、何処もかしこも上品なドレスはスーツを見に纏った紳士淑女ばかり。まさに貴族の社交界に相応しい催しといえよう。 「おいメイド。ワインが無くなった注げ」 男はグラス片手に傲慢な態度で近くのメイドを呼び止める。ワインが注がれると男は礼を言うわけでもなく何食わぬ顔で会場の人々を一望する。男は若さこそ有るものの、その立ち振る舞いから僅かに中年臭さを醸し出していた。 次第に、男はグラスのワインを一気に飲み干すと空のグラスをメイドに預け歩みを始めた。その視界には二人の若々しい男女が映る。 「……そうなのですね。実は私も」 「これはこれは、お二人とも随分と楽しそうですな。私も話に混ぜていただけますか?」 男は二人の顔色を伺うこともせず、ごく自然に話に割って入る。二人も特に疑わずに、それを受け入れる。しかし、あまり歓迎する空気ではない。 「まずは、自己紹介から。私はルーティック侯爵フリーク・ライアンと申します。以後お見知り置きを。それで、そちらは……」 男は隣の女性に視線を移す。 「こ、これはルーティック侯爵お初にお目にかかります。私はフルトン侯爵家次女パクス・アンナと申します。お目にかかれて光栄ですわ」 アンナは身につけたドレスを軽くつまみ頭を下げた。 「おお、これはフルトン侯爵家の娘様。それにアンナ、実に良い名だ、きっと立派なご両親がつけられたのでしょう。いやぁ、私もお会い出来て大変嬉しいですとも。どうです、私と一つ踊っていただけませんかな? 決して恥は欠かせませんよ」 「……すみませんルーティック侯爵。実は既に決まった相手がおりますので、そのお誘いはお断りさせていただきます」 ルーティック侯爵は、ゆっくりと隣に立ちすくむ若い男性に視線を送る。 「おっと、失礼。まだ、お名前を聞いておりませんでしたな。それで、貴方は……」 「申し遅れました。私はフォックス伯爵ナルサ・マイトと申します。本日はお会いできて光栄ですルーティック侯爵」 「伯爵…… 確か、侯爵の一つ下だったような…… いえっ、これは失礼、独り言です。お気になさらず。しかし、まあ一緒に踊っていただけないのは残念ですが"

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status